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天安文庫

小説を発表させていただいています。一行でも読んでいただけたら幸いですw

梔紫微斗(くちなししびと)の事件簿 〜ワンダートム殺人事件〜 第2回

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梔紫微斗(くちなししびと)の事件簿 〜ワンダートム殺人事件〜 第2回

「憎まれている?どういうことだ?」
梔は七村に訊いた。
「2004年に、外来生物法というのが制定されたでしょう」
と七村。
「ああ、そんな法律ができたな。アライグマを飼ってはいかん、とかテレビのニュースで特集をやっとった」
「あの法律ができて、ブラックバスが特定外来生物に指定され、バス釣りが完全にアナーキーなものとして社会に認知された途端に、和田は以前までと態度を豹変させたんです」

「豹変……」
「ええ。それまでの和田は、バス釣りの専門家、バサーのワンダートムとして名前を売ってきました。アニメのキャラクターになったのも、バス釣りのオーソリティーとして子供たちの人気者だったからです」
「ふむ」
「それが、
外来生物法ができた途端に、まだ施行は1年も先だというのに、バス釣りにノータッチ・ノーコメントになったんです。彼はバス釣りに関する全てをシャットアウトして、自身を『管理釣り場評論家』と名乗り始めた」
「またおかしな肩書を名乗りおって」
梔があきれる。
「バス釣りを愛する子供たちや、バサーたち…バサーというのはバス釣りをする人のことです…
バサーたちは和田の豹変ぶりを一斉に非難した。しかし和田はこれを一切、無視した。以来、ワンダートムは日本釣り会のヒールになったんです。ヒールというのは」
「それぐらいわかるよ。悪役、って意味だろ」
と、梔が苦笑する。
「失礼、とにかく外来生物法制定以降の和田は、日本全国の釣り師から白眼視されていたわけです」
「日本全国…釣り人口ってのは1千万人近くいるんだろ。とても絞りきれんな。しかし、それだけの人間から殺意を持たれる、ってのはおっそろしいもんだな」
「まあ、釣りをする人の全てが、殺したいほど和田を憎んでいたわけではありませんが…」

その時、制服を着た若い警官が小走りに近づいてきた。梔はその警官の顔に見覚えがあったが、名前が浮かんでこない。しかし、ボケが始まったわけではない、と自分に言いきかせる。知り合いの名前が思い出せないぐらいなんでもない。刑事としての職務には、何の障害もない。大切なのは“刑事の勘”なのだ…。

ブツブツと独り言を口にしていることにも気が付かない梔に、若い警官が頭を下げて、
「警部。重要参考人と思われる人物が、現在このフィッシングエリアに滞在中です」
と言った。
「なにッ!!」
梔の手が反射的に、背広の裡の、ホルスターの拳銃に伸びた。

                     つづく

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